保存 すべきかどうか
流体力学では、質量、運動量、エネルギーの 保存 に基づいて数式を立てます。こうしたことから、数値近似を行うときにも、これらの保存特性を維持しようという強い欲求が生じます。しかし、実際の解析では、 保存 の原則を厳密に順守することが必ずしも良い考え方とはならない状況が数多くあります。こうした状況を把握することで、数値近似の捉えにくい部分まで深く理解できるようになります。ここでは3つの例を用いて、この論点を示します。
自然対流
固定されたコントロールボリュームセットに分割された領域(すなわち、格子)内での対流を考えます。これらのボリューム要素を通過するエネルギー(熱)の流れを計算する必要があります。あるボリュームから出ていくエネルギーは、隣接ボリュームに入っていくエネルギーと等価であると考えるのが自然です。これが、熱エネルギー保存の式となります。
大半の自然対流問題では、流れを起こしている温度差は小さく、流れもほぼ非圧縮性挙動を示します。非圧縮性とは、コントロールボリュームを出ていく流体の体積が、そのボリュームに入ってくる体積と等しいことを意味します。ボリューム要素に余剰の体積が入ってきた場合、そこに余剰のエネルギーも累積して、局所的な温度上昇につながります(すなわち、数値的な圧縮)。それに対して、体積に損失が生じると(膨張)、要素内の温度が低下します。
極めて多数のコントロールボリュームにわたって体積フラックスの厳密な均衡をとることは、数値的には困難であるため、熱エネルギーを保存しようとする数値法では、結果に相当な量の「熱雑音」が含まれるケースが多くなります。この雑音が生じると、多くの場合、役に立たない計算結果しか得られません。
この計算上の問題を解決するには、保存を断念し、温度またはエネルギーの対流に対して非保存近似を用います。特に、どのみちゼロとなるべき圧縮/膨張項が除外されるような近似を使用すべきです。
極超音速流れ
極超音速流れの状態では、流れの運動エネルギーは、基本的にはその内部エネルギーよりも大幅に大きなものです。このような状況で、質量、運動量、総エネルギーを保存する数値近似を使用すると、流体温度で大きな誤差が生じる可能性があります(場合によっては、負の値となる)。これは、運動量の近似では常に何らかの誤差が生じるためで、運動エネルギーを計算する際に、その誤差は拡大します。計算対象となる保存量の1つである運動エネルギーを総エネルギーから減算したときに、結果として得られる内部エネルギー(または温度)に、この誤差が反映されます。極超音速条件下では、内部エネルギーよりも運動エネルギーが多いため、運動量における小さな誤差が、温度における大きな誤差につながる可能性があります。
この計算精度に関する問題を解決するには、通常、総エネルギーの保存を断念し、単に内部エネルギーを直接扱います。
不均一格子
不均一な格子は、特に保存の定式化と併用する場合に、低次の数値近似での潜在的な問題を抱えています。格子要素のサイズが不均一であると、一般的には、数値精度の次数が1つ下がることを意味します。これは、コントロールボリュームの両側に位置するフラックス間の差は、均一な格子では相殺される誤差を有しますが、要素サイズが均一でない場合には相殺されないことから生じます。
結果として起こることの1つに、均一格子での保存量の1次精度近似が、不均一格子ではゼロ次精度となることがあります。ゼロ次精度は、コントロールボリュームのサイズがゼロに近づいた場合でも、近似は正しい結果に収束することがないことを意味します。これは、望まれることではありません。
均一格子から不均一格子に変更した際に、近似精度の次数を維持するには、保存の定式化を断念することが必要です。均一格子で保存特性が維持され、格子が不均一となったときにも同じ次数の精度を維持できるような修正された形式の式を容易に導き出すことができます。FLOW-3Dは、計算結果を向上させるために、上記の3つすべてのアプローチをとるプログラムの1つです。