FLOW-3D European Users Conference 2014のご報告(2014年6月16日~18日)
今年のヨーロッパユーザーズカンファレンスはオーストリア、ウィーンで開催されました。弊社からは丸湾、馬場が参加いたしました。ロンドン、ヒースロー経由だったため、オーストリアを通り越して、少し戻った感じです。結局、ほぼ一日移動時間が掛かりました。
次の日は日曜、市内散策をしました。中心街から少し離れたホテルで地下鉄での移動です。市内の地下鉄、トラムは一日フリーパスがあり、早速購入してみました。出てきたのは紙のチケットで、改札で駅員さんに見せるのかと思えば、誰もおらず、みんなに合わせて(出入り自由な)改札を入っていきました。(、、、誰もチェックしないの?)結局ウィーンに滞在中、駅員さんは見かけませんでした。
中心街は観光地なだけあって、非常に賑わっていました。街のシンボル、シュテファン大聖堂の周辺ではモーツアルトの恰好した人があちこちに!”コンニチワ!”さすが観光客を捕まえるのがうまい、、、どうやらコンサートの勧誘のようでした。折角ですが行けないのです。その後の市街のそこかしこに見かけ、その度にロックオンされるのを感じました、、、
6月16日 ウィーン工科大学の見学、水理トレーニング
この日は午前よりウィーン工科大学の水理実験施設を見学に行ってきました。大学のBoris Huber教授にそれぞれの実験設備について詳しくご説明頂きました。これまで水理実験の設備を拝見する機会はありましたが、実際に水が流れている様子を見たことがなく、非常に参考になりました。特に余水路から急斜面を下降する流れが、下方で放物線を描きながら落下していく様子は圧巻でした。解析では度々目にする現象ですが、実験とはいえ迫力が違います。
午後はホテルに戻り、カンファレンスの会場で水理の専門トレーニングがありました。6月にリリースされたver.11(日本国内では近日出荷予定です)に加わった新しい洗掘モデルを使った事例について説明がありました。今回のモデルでは土砂の洗掘から堆積に至るまでリアルなモデル化がなされています。また、浅水モデルの解析事例として1928年に起きたSt.Francisダムの崩壊時の現存するデータを元に、シミュレーションによる当時の様子(河川の水位など)の再現を行っておりました。特にダム崩壊時の瓦礫をGMOでモデル化し、巨大な瓦礫が勢い良く流れる様は、崩壊のすさまじさを伝えてくれました。
6月17日 ユーザーズカンファレンス1日目
主催者のFLOW SCIENCE社、FLOW SCIENCE Deutschlandの挨拶に始まりカンファレンスが開始致しました。今回は2日間で発表数は23件になります。
開発元からはver.11の新機能と開発計画についての説明がありました。ver.11では構造連成機能FSI/TSEの構造体間の相互作用やk-ω乱流モデル、粒子に関する追加機能などがあります。また今後の開発計画について様々な提案がなされました。
引き続きver.11のインターフェースについて、これまでのポスト機能に加え、Flow SightTMと呼ばれるポストプロセッサが追加されました。これは汎用ポストプロセッサEnSightをベースとしたソフトウェアになります。使い方、機能は元のEnSightと同等です。これにより様々な出力要求に柔軟に対応頂けます。プリプロセッサについてもFAVORizeの機能が強化され、メッシュ分解能が足りない箇所の可視化で、よりメッシュ作成が便利となりました。
休憩を挟み、イタリアの代理店XC-engineering社より鋳造湯流れのカスタマイズに関する発表がありました。湯流れではガス巻き込みがつきものですが、その多くは微小なものです。シミュレーションではある程度の大きさのものは追跡できますが、メッシュの分解能により微小なものは潰れてしまいます。この潰れた瞬間の気泡の位置に質量粒子を配置することで、微小な巻き込みガスを追跡することが可能になります。弊社においても同様の事例でX線可視化実験との比較で、精度の高い予測ができることを確認しています。
FLOW SCIENCE Deutschlandからは特に鋳造に関わる様々な事例の紹介がありました。欠陥指標のカスタマイズや2流体モードを応用した中子砂の吹き込み解析、注湯の自動制御など、カスタマイズを施すことでより難易度の高い解析が可能となります。ドイツでは鋳造関係のユーザ様が多数いらっしゃり、解析方法やカスタマイズのアプローチなど非常に参考になりました。
午後からは水理と鋳造のセッションに分かれ、ユーザ様のご発表が続きました。今回は鋳造セッションに参加致しました。
オーストリアの工業技術研究所からは2層の複合材による連続鋳造の事例をご発表頂きました。異なるアルミ材を薄い層状に成形していく過程で、1層目の後に上から2層目を塗布していきます。2層間の融合は温度に大きく依存するため、2層目のノズル位置が重要であるとのことでした。ノズルからの距離と温度の分布は実測と良く一致しており、ノズルの位置決めにシミュレーションが有効であることが分かりました。
ドイツ、Erlangen大学からは圧電セラミックスをダイカストで鋳ぐるむ事例をご発表頂きました。ダイカストの高圧流れに対し、内部に配置された圧電セラミックスモジュールの損傷がなく、かつ湯流れで不良が生じないようにするために、解析による検討をされておりました。圧電セラミックスは微細な形状ですが、詳細な湯流れシミュレーションにより、多孔質状のモジュール間を湯が流れていく様子が確認できました。
イタリア、Protesa社からはレース用バイクの設計における2つの事例をご紹介頂きました。まずはバイクのスイングアームに関して、トポロジー最適化で得られた複雑なスイングアーム形状を用いて、熱サイクル計算により型温度の確認、冷却管の配置について検討されておりました。2つ目はバイク周りの空力シミュレーションの事例です。操縦者を含めたバイクを3Dスキャナで3D形状を作成し、走行中の様子を解析されておりました。バイク及び操縦者背後の渦や流速の乱れの様子がリアルに再現されておりました。アニメーションはFlowSightTM(EnSight)をご活用頂いており、弊社でも同様のシミュレーションを試してみたいと感じました。
フランス、サンデン株式会社ヨーロッパ事業所様からはダイカストの事例をご紹介頂きました。パワーポイントの最初に日本語で何か書かれていたのですが、後から調べたら”知を以て開き、和を以て豊に”とのこと。社訓だったようです。ここでもガス巻き込みに関するご検討で、射出速度の調整やランナー、ゲート形状での改善から最適化を図っておられました。他社鋳造ソフトウェアとの比較もあり、FLOW-3Dの評価が断然高いようでした!(ありがとうございます)
水理のセッションは参加できませんでしたが、関係者が多く、非常に白熱した議論があり、充実していたようです。
6月14日 ユーザーズカンファレンス2日目
2日目、初日は弊社の発表から始まりました。丸湾より開発中のレーザ溶接機能、DEM(Discrete Element Method)、FSAI(流体-構造インターフェース)を紹介させて頂きました。溶接やDEMのような機能はFLOW-3Dの適用範囲を広め、さらに機能を充実させていきたいと考えています。FSAIも鋳造関係のユーザ様が多数いらっしゃったこともあり、発表後も色々とご要望を頂くことができました。
再び開発元よりver.11に新しく加わったメッシュ機能(適合メッシュ)についての詳細な説明がありました。ver.11ではより効率よくメッシュを作成できるようキャビティや物体に対して適合メッシュを作成することができるようになりました。例えば下図のように鋳型のキャビティ部を細かく、型は粗くメッシュを作成したり、壁面近傍のみを細かくするなど、効率良いメッシュが容易に作成頂けます。壁面近傍を細かくする切り方では、例えばはんだ、ろう付けや河川など平面スケールが大きく、流体量が少ない問題に適しています。
ドイツ、Erlangen大学からはロールコーティングに関するご発表です。コーティングの欠陥もやはりガス巻き込みに起因するものが多いようです。ロール速度のバランスによってはフィルム内にガスを巻き込んでしまいます。シミュレーションでも断熱気泡を用いることで界面の剥離からガス巻き込みが発生する様子が確認できました。巻き込みが発生するロールの臨界速度も実験と一致していたようです。せん断力が強く、主に粘度の影響が強いようです。
ドイツ、Roche Diagnostics社からはスロットコーティングに関するご発表がありました。コーティングは通常厚みが非常に薄く、平面方向が広範囲に渡るため、2D解析から始めることが多いですが、幅方向の変化も重要で、3Dでの解析も実施されておりました。こちらも搬送速度や上流側の減圧効果なども考慮する必要があり、様々な工夫を行っておられました。厳密には気液の2相で解析を行う必要があり、安定した結果を得るのに苦労されたそうです。
ドイツ航空宇宙センターからは衛星用ロケットの推進燃料のタンク内のスロッシングの事例をご発表頂きました。無重力下では表面張力やタンクとの接触角、粘性力が重要となります。タンク内界面の振動を実験と比較し、良く一致していることを確認されておりました。本来タンクは温度分布を持ち、ガスは飽和状態であるため、蒸発や凝縮など非常に複雑な現象を捉える必要があるようです。
再びドイツ、Erlangen大学より珍しい解析事例です。血流に関して、静脈からの麻酔や弁の効果、輸血に関する影響を確認する目的で、簡略化した静脈形状モデルでの解析を行っておられました。管路と幾つかの弁を設け、麻酔薬がどのように拡がるかを可視化されておりました。検証等が難しい問題ですが、また今後の研究が楽しみです。
オーストリア、Innsbruck大学からは水理に関わる様々な事例をご発表頂きました。オーストリア国内のダムにおける余水路の流動挙動やダム水位に対する排水量の評価、落水の解析、また河川内の流動についてご説明頂きました。
トルコ、Gaziantep大学からはダム崩壊に関するご発表がありました。崩壊に至るには余水路の容量、配管、洪水など様々な要因が複合的に絡みますが、大きなダムについては過去のデータより最悪なシナリオより設計されています。最近では急激な気象変動が多く、それらに対応するために実際のダムのモデルを使ったケーススタディを行っておられました。余水路を含めたダム全体による大規模な解析となっておりました。
今回のカンファレンスも盛況のうち終えることができました。新バージョンではFlow SightTMなど新しいポストプロセッサが加わり、GUIも様々な機能が加わりました。国内ユーザ様にもなるべくスムーズにご習得頂けるよう、サポートやユーザサイト、バージョンアップセミナーなど充実させていきたいと思います。